「睡眠中に生じる望ましくない状態」は睡眠時随伴症と呼ばれています。睡眠時随伴症では、主に児童期で見られる「寝ぼけ」(睡眠時遊行症)や「夜尿症」(睡眠時遺尿症)などが有名かと思います。最近、50歳以後の男性で頻発する睡眠時随伴症である「レム睡眠行動障害」が注目されてきています。
睡眠ポリグラフ検査を行なうと、睡眠中には急速な眼球運動を伴う「レム睡眠(Rapid Eye Movement Sleep;REM sleep)」と「ノンレム睡眠」が区別されます。通常の睡眠では、このノンレム睡眠とレム睡眠が一つの単位(睡眠単位)を形成し、80‐120分(平均の睡眠単位は90分)ごとに、一晩で3‐5回繰り返されています。 1953年、AserinskyとKleitmanによりこのレム睡眠が発見されて以後、夢の多くはレム睡眠中に見ていることが判明しました。夢を見ているレム睡眠では、大脳が活発に活動しており、眠りが浅くなっています。しかし、レム睡眠では手足の筋肉は緩んで力が入らないような神経の仕組みが働いています。従って、健康な方では夢を見ても夢のとおりに行動することはありません。
ところが近年、50歳以後の男性で、睡眠中に、夢を見ながら、その夢で見たと同じ行動を行なう病気があることがわかってきました。1986年にSchenkとMahowaldにより提唱された睡眠時随伴症である「レム睡眠行動障害」が注目されています。さらにこの病気が「パーキンソン病」や「レビー小体型認知症」の初期病変である可能性が示唆されるようになってきました。
RBDは急性と慢性に分けられます。 急性RBD:薬物からの離脱や薬物中毒 慢性RBD �� 特発性(原因不明であるがRBDの60%位を占めている) �� 神経変性疾患:パーキンソン病、多系統萎縮症、レビ−小体型認知症など �� 脳血管障害 �� 炎症性疾患 �� その他:ナルコレプシー、ミトコンドリア脳筋症など 特発性慢性RBDの頻度と性差:50歳以上の男性に多く見られる 発生頻度:一般人口の約0.38%、一般老人の0.5% 発症年齢:平均52.6歳(9歳〜84歳) 性 差:男性が90%を占める
睡眠中に夢の内容の行動化(dream-enacting behavior)を伴う。レム睡眠中にもかかわらず、骨格筋弛緩のメカニズムが破綻し、夢の中の行動がそのまま現れてしまいます。また、夢の内容は、非常に鮮明ですが、不快な夢や暴力的な夢が多いといわれています。まず最初は、夢の内容が変化し、その後に以下のような睡眠中の異常行動が出現します。 �� 大きな寝言を言ったり、笑ったり、叫んだりする �� 黒板に何かを書くようなジェスチャーをしたり、布団に座って説教をし始める �� 壁を殴ったり、壁や寝床の周囲にあるものを蹴飛ばして、物を壊したり、あるいは自分が寝ているうちに怪我をすることもある �� 寝床の周りにある物を投げつけたり、ベッドからジャンプして落ちたりする �� ベッドパートナーの首をしめたり、殴ったりする �� 部屋の中を這ったり、走ったりし、寝室から外へ出ようとすることがある 異常行動の途中で起されると、すぐに覚醒し、自分が見ていた夢内容を述べることができる。決して譫妄のように意識の混乱が生じることはありません。(子供さんの夢遊病(睡眠時遊行症)はノンレム睡眠で生じ、異常行動中に起しても十分には覚醒せず、非常に機嫌が悪い印象をうけます) RBDの異常行動は、睡眠後半に多く、一晩で2−3回(レム睡眠のサイクルのため、約90分おきに出現することもある)も異常行動を起す方もおられます。
RBDの診断基準 ( 粥川裕平:睡眠医療2008 ) �� 筋肉の抑制を伴わないレム睡眠が存在する �� 少なくとも、次の一項目が存在する ア) 怪我をしてしまうか、あるいは怪我をしてもおかしくないような睡眠時の荒々しい行動 イ) 睡眠ポリグラフ検査中に記録されたレム睡眠時の異常行動 �� レム睡眠中に、てんかん性の脳の活動が見られない �� 他の睡眠異常症(内科疾患や神経疾患、精神疾患、薬剤性や物質暴露)では十分に説明できない睡眠障害である 以上のように、RBDの診断には詳しい病歴の聴取と睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)が必要になります。 ��RBDの診断に有用な検査 �―�夜睡眠ポリグラフ検査(無呼吸症とほぼ同じ検査) 最近の報告では、検査日に必ずしも夢と一致した行動を示さない方もおられるので、レム睡眠に一致した手足の微妙な動きを観察する必要があることが指摘されています。また、異常行動の記録のため、ビデオ撮影を併用した睡眠ポリグラフ検査(Video-PSG)が、RBDの診断の確実性を増すことが指摘されています。(当クリニックでは、睡眠中の異常行動の出現に備え、睡眠検査技師の当直及びビデオモニターを併用しています) ��MIBG心筋シンチグラフィー検査 123I−MIBG心筋シンチグラフィーでおける取り込みの低下が認められます。RBDでは、パーキンソン病と同じように、心臓へ分布している交感神経が障害されていることによります。パーキンソン病の進展仮説(Braak ら)のステージ1の相当する病変といわれています。 �F端譴焚菫�検査:PETやSPECT 脳幹部や線状体ドパミン神経細胞の異常が観察されます。 �び務仂祿� パーキンソン病の進展仮説(Braakら)のステージ1の相当する病変です。嗅覚の中枢はドパミン神経細胞(A16)が関与しています。このためパーキンソン病の進展仮説(Braakら)のステージ1の相当する病変に相当する症状であり、RBD患者の約70‐90%で嗅覚の障害が認められます。 以上のような新しい検査方法・検査手段が注目されています。しかし、これらの検査は現在の所、RBDの診断に対しては健康保険の適応がないので、誰にでもできるわけではありません。今後この分野の研究が進んでくれば、有用な早期診断法になると考えられています。
RBDには�.譽狄臾欧任△襪海函↓¬憾�ていること、の2つのことに関連している病気です。現在の所、「夢を見ること」と「レム睡眠」は別々にメカニズムが働いていることが考えられています。最近では、簡単なストーリー性のない夢はノンレム睡眠期にも見られていることが明らかになってきています。従って、RBDの問題を考えるときには、次の2つに分けて考える必要があります。 �� レム睡眠なのに、RBDではなぜ筋肉の緊張の抑制が解除されるのか? レム睡眠時には下顎を含め、手足の筋緊張消失を生じていますが、正確なメカニズムは解明されていません。現在考えられていることは以下の経路です。 正常の場合のレム睡眠時に筋肉の緊張を抑制する細胞集団は、脳幹部に存在する青斑核アルファ傍核(peri LC α)が重要であるといわれています。この神経集団から、延髄の大細胞網様核に刺激が伝わり、さらに背髄の運動神経集団(背髄前核細胞)を抑制することで、下顎を含めた四肢の筋緊張が抑制されていると考えられています。 レム睡眠の発現にはコリン作動性ニューロン(橋被蓋部にある背外側被蓋核と脚橋被蓋核)が重要な役割を果たしています。動物のレム睡眠時には明らかに脳内のアセチルコリンが増加していることが証明されています。脳幹部にはモノアミン系を代表とする脳内神経伝達物質を産生している重要な多くの神経核(神経の集団)があります。代表的なものとしては、青斑核(A6)のノルアドレナリン、赤核(A8)と黒質緻密部(A9)のドパミン、縫線核のセロトニンなどです。これらのモノアミン系の脳内伝達物質の役割は十分には解ってはいませんが、レム睡眠では、ノルアドレナリン細胞とセロトニン細胞が全く働いておりません。すなわち、レム睡眠ではノルアドレナリンやセロトニンからの抑制を解かれて高まったコリン作動系が、幻覚、連想、情動に関わる脳の部位を局所的に活性化していると考えられています。しかし、この状態でドパミンがどのように「夢見」に関与しているか良く解っておらず、今後の解明に注目が集まっています。 RBDでは、脳幹部の神経細胞にαシヌクレイン蛋白が蓄積し、脳内神経伝達物質の産生や伝達が障害されることになります。ちなみに、黒質緻密部や赤核のドパミン細胞にαシヌクレイン蛋白が過剰に蓄積して、75-80%以上障害されると「パーキンソン病」を生じるといわれています。RBDでも同様の物質の沈着が注目されており、脳幹部の神経細胞から分泌されるモノアミン系脳内伝達物質の減少により、睡眠中に手足の筋肉抑制の維持できなくなる為、RBDの症状が出現すると考えられています。 �� 何故、夢を見ているときに異常行動が生じるのか? 夢を見るメカニズムははっきりしていませんが、RBDでは感情をコントロールしている大脳辺縁系にも病変が広がっていることが報告されています。従って、身体的ストレス(睡眠時無呼吸症など)や心理的ストレス(心的外傷など)が誘因となり、感情豊かで鮮明な夢体験を生じるものと考えられています。
RBD症状のみで亡くなった患者さんで、レビ−小体が脳幹部の神経細胞に沈着していたことが証明されています。日本人のケースでは、約20年間のRBD症状のみでしたが、レビ−小体が青斑核と黒質に認めたことが報告(Uchiyamaら、1995)されています。一方、2007年には、15年間のRBD症状の患者で脳幹部にレビ−小体が認められなかったケースも報告(Boeveら)もあり、RBDの障害部位については確定していません。しかし、脳幹部の障害はMRI検査やSPECT検査でも証明されてきており、感情、睡眠あるいは身体の微妙な運動をコントロールするための多くの神経核の障害が引き起こされるため、多様な神経変性疾患を引き起こすことになります。 RBDの53%〜57%に神経変性疾患(パーキンソン病、多系統萎縮症、レビ−小体病など)が関係していたと報告されています。特にパーキンソン病の初期症状としての嗅覚障害や自律神経障害、気分障害に並んで、RBDが注目されてきています(Braakのパーキンソン病進展仮説)。ある報告では、50歳以上のRBD患者さんの38%がパーキンソン病になり、RBDと診断されてから平均3.7年、RBDの症状が出てから平均12.7年で、パーキンソン病になっています。 逆に、パーキンソン病になった方の48%にRBD症状を認め、平均3年でパーキンソン病を発病したり、多系統萎縮症では44%にRBDのみの症状の時期があり、1~19年で多系統萎縮症を生じたり、レビ−小体型認知症の77%にRBDのみの時期があり、平均9年でレビ−小体型認知症を併発したとの報告もあります。これらのことから、RBDは一部の神経変性疾患の初期症状であると考えられてきています。逆に初期症状をコントロールすることで、神経変性疾患への進展を予防できるかということにも注目が集まっています。
A) 非薬物的療法 �� 睡眠環境の整備 事故の危険防止措置・異常行動による傷害の防止 寝具をベッドからマットレスや布団にする 寝ている周囲には危険なものを置かない(投げたり、蹴飛ばしたりする) 急に大きな声でおこさず、そっとやさしく起す(敵が襲ってきたと勘違いして、殴られたり、蹴飛ばされることがあります) �� 家族関係の悪化を防止 患者や家族に病気のことを説明し理解してもらう 精神的障害や確立した認知症ではなく、治療可能であることを説明する �� 発症の誘引のチェック ストレスの解除(専門医へ相談する) 重症の睡眠時無呼吸症の併発(CPAP治療を行なう) 過度の飲酒を避ける 服用薬剤(MAO阻害剤、三環系抗うつ剤、カフェインなど)に注意 B) 薬物的療法 現時点(2008/2)では、保険適応のある薬はないのが現状である。効果があると報告されているものを記載する。 �� ベンゾジアゼピン系(クロナゼパム) 慢性特発性RBD患者では約90%に治療効果(異常行動の抑制、悪夢の調整)があるといわれている。睡眠時無呼吸症候群の悪化には注意がいる。 �� メラトニン(現状では個人輸入しかない) �� ドパミン作動薬(プラミペキソール) �� 塩酸ドネペジル レム睡眠行動障害を発見するには家族の協力が必要です。個人では、悪い夢を見ているようだと感じるときもありますが、多くは自分では気がつきません。もし、睡眠中に以上を感じたり、睡眠中に怪我をしていたり、家族に睡眠中の異常な寝言や行動を指摘された方は、大きな総合病院あるいは睡眠医療を専門にしている施設を受診して見て下さい。
「睡眠中に生じる望ましくない状態」は睡眠時随伴症と呼ばれています。睡眠時随伴症では、主に児童期で見られる「寝ぼけ」(睡眠時遊行症)や「夜尿症」(睡眠時遺尿症)などが有名かと思います。最近、50歳以後の男性で頻発する睡眠時随伴症である「レム睡眠行動障害」が注目されてきています。
睡眠ポリグラフ検査を行なうと、睡眠中には急速な眼球運動を伴う「レム睡眠(Rapid Eye Movement Sleep;REM sleep)」と「ノンレム睡眠」が区別されます。通常の睡眠では、このノンレム睡眠とレム睡眠が一つの単位(睡眠単位)を形成し、80‐120分(平均の睡眠単位は90分)ごとに、一晩で3‐5回繰り返されています。

1953年、AserinskyとKleitmanによりこのレム睡眠が発見されて以後、夢の多くはレム睡眠中に見ていることが判明しました。夢を見ているレム睡眠では、大脳が活発に活動しており、眠りが浅くなっています。しかし、レム睡眠では手足の筋肉は緩んで力が入らないような神経の仕組みが働いています。従って、健康な方では夢を見ても夢のとおりに行動することはありません。
ところが近年、50歳以後の男性で、睡眠中に、夢を見ながら、その夢で見たと同じ行動を行なう病気があることがわかってきました。1986年にSchenkとMahowaldにより提唱された睡眠時随伴症である「レム睡眠行動障害」が注目されています。さらにこの病気が「パーキンソン病」や「レビー小体型認知症」の初期病変である可能性が示唆されるようになってきました。
RBDは急性と慢性に分けられます。
急性RBD:薬物からの離脱や薬物中毒
慢性RBD
�� 特発性(原因不明であるがRBDの60%位を占めている)
�� 神経変性疾患:パーキンソン病、多系統萎縮症、レビ−小体型認知症など
�� 脳血管障害
�� 炎症性疾患
�� その他:ナルコレプシー、ミトコンドリア脳筋症など
特発性慢性RBDの頻度と性差:50歳以上の男性に多く見られる
発生頻度:一般人口の約0.38%、一般老人の0.5%
発症年齢:平均52.6歳(9歳〜84歳)
性 差:男性が90%を占める
睡眠中に夢の内容の行動化(dream-enacting behavior)を伴う。レム睡眠中にもかかわらず、骨格筋弛緩のメカニズムが破綻し、夢の中の行動がそのまま現れてしまいます。また、夢の内容は、非常に鮮明ですが、不快な夢や暴力的な夢が多いといわれています。まず最初は、夢の内容が変化し、その後に以下のような睡眠中の異常行動が出現します。
�� 大きな寝言を言ったり、笑ったり、叫んだりする
�� 黒板に何かを書くようなジェスチャーをしたり、布団に座って説教をし始める
�� 壁を殴ったり、壁や寝床の周囲にあるものを蹴飛ばして、物を壊したり、あるいは自分が寝ているうちに怪我をすることもある
�� 寝床の周りにある物を投げつけたり、ベッドからジャンプして落ちたりする
�� ベッドパートナーの首をしめたり、殴ったりする
�� 部屋の中を這ったり、走ったりし、寝室から外へ出ようとすることがある
異常行動の途中で起されると、すぐに覚醒し、自分が見ていた夢内容を述べることができる。決して譫妄のように意識の混乱が生じることはありません。(子供さんの夢遊病(睡眠時遊行症)はノンレム睡眠で生じ、異常行動中に起しても十分には覚醒せず、非常に機嫌が悪い印象をうけます)
RBDの異常行動は、睡眠後半に多く、一晩で2−3回(レム睡眠のサイクルのため、約90分おきに出現することもある)も異常行動を起す方もおられます。
RBDの診断基準 ( 粥川裕平:睡眠医療2008 )
�� 筋肉の抑制を伴わないレム睡眠が存在する
�� 少なくとも、次の一項目が存在する
ア) 怪我をしてしまうか、あるいは怪我をしてもおかしくないような睡眠時の荒々しい行動
イ) 睡眠ポリグラフ検査中に記録されたレム睡眠時の異常行動
�� レム睡眠中に、てんかん性の脳の活動が見られない
�� 他の睡眠異常症(内科疾患や神経疾患、精神疾患、薬剤性や物質暴露)では十分に説明できない睡眠障害である
以上のように、RBDの診断には詳しい病歴の聴取と睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)が必要になります。
��RBDの診断に有用な検査
�―�夜睡眠ポリグラフ検査(無呼吸症とほぼ同じ検査)
最近の報告では、検査日に必ずしも夢と一致した行動を示さない方もおられるので、レム睡眠に一致した手足の微妙な動きを観察する必要があることが指摘されています。また、異常行動の記録のため、ビデオ撮影を併用した睡眠ポリグラフ検査(Video-PSG)が、RBDの診断の確実性を増すことが指摘されています。(当クリニックでは、睡眠中の異常行動の出現に備え、睡眠検査技師の当直及びビデオモニターを併用しています)
��MIBG心筋シンチグラフィー検査
123I−MIBG心筋シンチグラフィーでおける取り込みの低下が認められます。RBDでは、パーキンソン病と同じように、心臓へ分布している交感神経が障害されていることによります。パーキンソン病の進展仮説(Braak ら)のステージ1の相当する病変といわれています。
�F端譴焚菫�検査:PETやSPECT
脳幹部や線状体ドパミン神経細胞の異常が観察されます。
�び務仂祿�
パーキンソン病の進展仮説(Braakら)のステージ1の相当する病変です。嗅覚の中枢はドパミン神経細胞(A16)が関与しています。このためパーキンソン病の進展仮説(Braakら)のステージ1の相当する病変に相当する症状であり、RBD患者の約70‐90%で嗅覚の障害が認められます。
以上のような新しい検査方法・検査手段が注目されています。しかし、これらの検査は現在の所、RBDの診断に対しては健康保険の適応がないので、誰にでもできるわけではありません。今後この分野の研究が進んでくれば、有用な早期診断法になると考えられています。
RBDには�.譽狄臾欧任△襪海函↓¬憾�ていること、の2つのことに関連している病気です。現在の所、「夢を見ること」と「レム睡眠」は別々にメカニズムが働いていることが考えられています。最近では、簡単なストーリー性のない夢はノンレム睡眠期にも見られていることが明らかになってきています。従って、RBDの問題を考えるときには、次の2つに分けて考える必要があります。
�� レム睡眠なのに、RBDではなぜ筋肉の緊張の抑制が解除されるのか?
レム睡眠時には下顎を含め、手足の筋緊張消失を生じていますが、正確なメカニズムは解明されていません。現在考えられていることは以下の経路です。
正常の場合のレム睡眠時に筋肉の緊張を抑制する細胞集団は、脳幹部に存在する青斑核アルファ傍核(peri LC α)が重要であるといわれています。この神経集団から、延髄の大細胞網様核に刺激が伝わり、さらに背髄の運動神経集団(背髄前核細胞)を抑制することで、下顎を含めた四肢の筋緊張が抑制されていると考えられています。
レム睡眠の発現にはコリン作動性ニューロン(橋被蓋部にある背外側被蓋核と脚橋被蓋核)が重要な役割を果たしています。動物のレム睡眠時には明らかに脳内のアセチルコリンが増加していることが証明されています。脳幹部にはモノアミン系を代表とする脳内神経伝達物質を産生している重要な多くの神経核(神経の集団)があります。代表的なものとしては、青斑核(A6)のノルアドレナリン、赤核(A8)と黒質緻密部(A9)のドパミン、縫線核のセロトニンなどです。これらのモノアミン系の脳内伝達物質の役割は十分には解ってはいませんが、レム睡眠では、ノルアドレナリン細胞とセロトニン細胞が全く働いておりません。すなわち、レム睡眠ではノルアドレナリンやセロトニンからの抑制を解かれて高まったコリン作動系が、幻覚、連想、情動に関わる脳の部位を局所的に活性化していると考えられています。しかし、この状態でドパミンがどのように「夢見」に関与しているか良く解っておらず、今後の解明に注目が集まっています。
RBDでは、脳幹部の神経細胞にαシヌクレイン蛋白が蓄積し、脳内神経伝達物質の産生や伝達が障害されることになります。ちなみに、黒質緻密部や赤核のドパミン細胞にαシヌクレイン蛋白が過剰に蓄積して、75-80%以上障害されると「パーキンソン病」を生じるといわれています。RBDでも同様の物質の沈着が注目されており、脳幹部の神経細胞から分泌されるモノアミン系脳内伝達物質の減少により、睡眠中に手足の筋肉抑制の維持できなくなる為、RBDの症状が出現すると考えられています。
�� 何故、夢を見ているときに異常行動が生じるのか?
夢を見るメカニズムははっきりしていませんが、RBDでは感情をコントロールしている大脳辺縁系にも病変が広がっていることが報告されています。従って、身体的ストレス(睡眠時無呼吸症など)や心理的ストレス(心的外傷など)が誘因となり、感情豊かで鮮明な夢体験を生じるものと考えられています。
RBD症状のみで亡くなった患者さんで、レビ−小体が脳幹部の神経細胞に沈着していたことが証明されています。日本人のケースでは、約20年間のRBD症状のみでしたが、レビ−小体が青斑核と黒質に認めたことが報告(Uchiyamaら、1995)されています。一方、2007年には、15年間のRBD症状の患者で脳幹部にレビ−小体が認められなかったケースも報告(Boeveら)もあり、RBDの障害部位については確定していません。しかし、脳幹部の障害はMRI検査やSPECT検査でも証明されてきており、感情、睡眠あるいは身体の微妙な運動をコントロールするための多くの神経核の障害が引き起こされるため、多様な神経変性疾患を引き起こすことになります。
RBDの53%〜57%に神経変性疾患(パーキンソン病、多系統萎縮症、レビ−小体病など)が関係していたと報告されています。特にパーキンソン病の初期症状としての嗅覚障害や自律神経障害、気分障害に並んで、RBDが注目されてきています(Braakのパーキンソン病進展仮説)。ある報告では、50歳以上のRBD患者さんの38%がパーキンソン病になり、RBDと診断されてから平均3.7年、RBDの症状が出てから平均12.7年で、パーキンソン病になっています。
逆に、パーキンソン病になった方の48%にRBD症状を認め、平均3年でパーキンソン病を発病したり、多系統萎縮症では44%にRBDのみの症状の時期があり、1~19年で多系統萎縮症を生じたり、レビ−小体型認知症の77%にRBDのみの時期があり、平均9年でレビ−小体型認知症を併発したとの報告もあります。これらのことから、RBDは一部の神経変性疾患の初期症状であると考えられてきています。逆に初期症状をコントロールすることで、神経変性疾患への進展を予防できるかということにも注目が集まっています。
A) 非薬物的療法
�� 睡眠環境の整備
事故の危険防止措置・異常行動による傷害の防止
寝具をベッドからマットレスや布団にする
寝ている周囲には危険なものを置かない(投げたり、蹴飛ばしたりする)
急に大きな声でおこさず、そっとやさしく起す(敵が襲ってきたと勘違いして、殴られたり、蹴飛ばされることがあります)
�� 家族関係の悪化を防止
患者や家族に病気のことを説明し理解してもらう
精神的障害や確立した認知症ではなく、治療可能であることを説明する
�� 発症の誘引のチェック
ストレスの解除(専門医へ相談する)
重症の睡眠時無呼吸症の併発(CPAP治療を行なう)
過度の飲酒を避ける
服用薬剤(MAO阻害剤、三環系抗うつ剤、カフェインなど)に注意
B) 薬物的療法
現時点(2008/2)では、保険適応のある薬はないのが現状である。効果があると報告されているものを記載する。
�� ベンゾジアゼピン系(クロナゼパム)
慢性特発性RBD患者では約90%に治療効果(異常行動の抑制、悪夢の調整)があるといわれている。睡眠時無呼吸症候群の悪化には注意がいる。
�� メラトニン(現状では個人輸入しかない)
�� ドパミン作動薬(プラミペキソール)
�� 塩酸ドネペジル
レム睡眠行動障害を発見するには家族の協力が必要です。個人では、悪い夢を見ているようだと感じるときもありますが、多くは自分では気がつきません。もし、睡眠中に以上を感じたり、睡眠中に怪我をしていたり、家族に睡眠中の異常な寝言や行動を指摘された方は、大きな総合病院あるいは睡眠医療を専門にしている施設を受診して見て下さい。